海育ちの風 (1986年 ララ8月号)
この作品がララに掲載された当時、私は中学受験の追い込み真っ最中でした。なんで受験しなきゃいけないんだろう、などと考えているところにこの作品は深く突き刺さったです(゜-゜)
当時のララ本誌は、ちょうどわかつきめぐみ先生の「So What?」が始まったところだったのではないでしょうか。ほかにも「CIPHER」や「小山荘のきらわれ者」「朱鷺色参画」「時間をとめて待っていて」などが連載中で、受験戦争のさなか私の心の避難所となっていた漫画雑誌でした。
本作が収められている単行本、Amazonさんでは書影が出ませんね。このコミックが発売された時には私は無事中学受験を終え、鹿児島で寮生活をしていました。休みの日に天文館の書店をハシゴして探し回ったのですが見つからず、同級生に指宿市の書店の息子さんがいましたので、その子に頼んで買ってきてもらったのを覚えています。
さて、この「海育ちの風」という短編なのですが、青木知也子さんは主人公の岸田さんのことを、描いた絵を通して出会う前から知っている。そして、岸田さんも彼女が文芸部誌に書いた文章を読むことによって強く惹かれていく。
岸田さんは自身の創作意欲の原点や情熱、将来への漠然とした不安をつい吐露してしまいます。そこで知也子さんは学校の屋上へと彼を連れ出し、自分がとても大事にしている海景色を観せ、彼女自身の創作について告白するのです。
いまだにすごいと思っているのがこの二人の関係のジェットコースターな展開。屋上で知也子さんが「うん わかるもの わたし あなたは 描くわ」って言うでしょう。もう彼のことを完全に理解していて、しかも呼び方まで変えてる。そこからの「わたしたち 絵本つくろうよ」です。「あおいちゃんパニック!」なら完全にプロポーズですよ( ゚Д゚)
※こちらの竹本泉作品では「一緒に絵を描こう」というのが求婚になるらしいです('ω')ノ
しかも、その自分たちの将来への提案の後に初めて岸田さん「下の名前 教えてよ」って聞くわけです。ラストの絵本の表紙で二人の名前が確認できるとこなんかも良いですよね。こういう補完し合って一緒にやっていく関係っていまだに憧れます。
「色づく世界の明日から」の最終回で、絵本の表紙に「さく・え あおい ゆいと」って唯翔君の名前が出てくるところがあるでしょう。あのシーン見てた時に、ああ岸田さんと知也子さんは二人で絵本作ったのに、唯翔は一人だったんだな……ってしんみりしてしまいました(´・ω・`)
「海育ちの風」は私にとって、岡野史佳先生にどっぷりはまるきっかけになった作品で、いまだに個人的に「きみは空のしるべ」と双璧を成す短編です。ぜひ再販、せめて電子書籍化して欲しいと切望します(*'ω'*)
以下メモ (ページ番号は単行本のもの)
P12 岸田さんの部屋のコンポが懐かしみを感じる。ごちゃっとしたイコライザーとか。
P14 1/4スペース Comet Hour 1
インターネット時代万歳!こんな絵本の作家なのですね。
P15 ムーンライダーズのライブに6年ぶりに行った、半熟隊の仁則君がかわいいという記載あり。
P17 秋田犬は「犬山くん」でフルネーム
P19 高校名は県立南洋台高校。その文芸誌の後書きにBGMあり。大貫妙子・矢野顕子・坂本龍一・ムーンライダーズ・大江千里
P35 「青林堂書店」これは明林堂かな?西日本銀行もあります。